循環器内科において、せん妄は深刻な肉体的な病気のサインであることが多い。
せん妄発症率は、
・術後患者 10-50%
・一般内科病棟 20-30%
・長期入院病棟 20%以下
せん妄は様々な症状を呈し、全てのカテゴリーの精神疾患と誤診されることのある疾患である。せん妄は潜在的な生理的障害により引き起こされる症候群で、意識障害や注意力の障害、認知の障害を伴い変動的に経過する。非集中治療医がICU管理を行う際,いい加減にされがちなのが①栄養管理,②リハビリテーション,そして③不穏・せん妄管理であると思われる(自施設例).ICUのみならず一般的な医療ケアにおいて,不穏,せん妄に対してはきっちりとした指導を受けたこともなく,苦手意識もあってか,私自身が評価や鎮静薬調整を恥ずかしながら病棟看護師に任せていた研修医時代の過去がある.このような傾向は私以外の医師にも多く見られるようであるが,せん妄が予後に関連することが多くの報告で示されてきている以上,医師もせん妄評価・予防・対処についての知識を有しておく必要があり,「とりあえずアタラックスPR」「とりあえずリスパダールR」という盲目的対応しかできない状態から脱却する必要がある.そもそも,(たとえ抗菌薬を分かっていなくても,不適切でICTから指摘されていても)抗菌薬は自分で頑固に選択するのに,鎮静や栄養は他人任せ.
ICU入室患者では、下記のリスク因子が判明しています。
・認知症合併
・高血圧
・入院時の重症度
・昏睡状態
その他にも、
高齢(>70歳)、男性、アルコール、独居、腎不全、薬剤(特に睡眠剤、向精神薬)、環境の変化
などなど様々な要因が知られています。
Devlin JW, Fong JJ, Fraser GL, et al.:Delirium assessment in the critically ill. Intensive Care Med 2007
せん妄の種類
・過活動型 不穏、暴言、暴行が主体。家族、医療従事者への負担が大きい。本人にせん妄時の記憶が残る事が有り、せん妄から回復した後の本人の精神的負担も大きい。
・低活動型 活気がなくなり、食欲低下を起こす。
・混合型 過活動型、低活動型双方を引き起こしたもの。
低活動型と混合型のせん妄は気が付きにくいので注意が必要です。
せん妄の治療は、
・α2刺激薬;静注鎮静薬 プレセデックスR ガイドラインで推奨されています。集中治療や、局所麻酔の鎮静のみに保険適応があり、病棟では使用しづらいです。
・ハロペリドール セレネースR、リントンR 傾眠、錐体外路症状などの合併症が有ります。注射薬は我が国ではせん妄治療のの保険適応が有ります。ただしFDAは認可しておらず、エビデンスは乏しいです。
せん妄の治療、予防はエビデンスが乏しいのが現状です。
せん妄は患者が平坦な情動をとる際にはうつ病と間違えられ、興奮や混乱を伴う際には躁病と、幻覚や妄想を伴う際には精神病と、情動不安や過覚醒を伴う際には不安障害と、認知機能障害を伴う際には認知症と、そして意識障害を伴う際には薬物乱用などと間違えられることがある。その症状の多さからせん妄は、DSM-Ⅳの中で「せん妄の存在下にてほとんど全ての他の疾患の診断はすることが出来ない」という診断特権を持っている。循環器内科で入院患者さんがせん妄になったら、対応が必要だ。
1.注意を集中,維持,転導する能力の低下を伴った意識の障害.
2.認知の変化(記憶欠損,失見当識,言語の障害など),またはすでに進行し,確定され,または進行中の痴呆ではうまく説明されない知覚障害の出現.
3.短期間(通常,数時間から数日)のうちに出現し,1日のうちで変動する傾向がある.
4.病歴,身体診察,臨床検査所見から,その障害が一般身体疾患の直接的な生理学的結果により引き起こされている.
また、特筆すべきこととしてせん妄は深刻な肉体的な病気のサインであることが多い。せん妄は在院日数の増加や処置費用の増加と関連している。ICUの患者における前向き研究では、せん妄は全入院の31%に発生し、挿管および人工呼吸器管理が必要な患者では81.7%に及ぶ。