循環器内科

心不全の症例(下腿浮腫を合併)

9月 29, 2018

心不全の症例(下腿浮腫を合併)

循環器内科

循環器内科

#1.うっ血性心不全
#2.陳旧性心筋梗塞
#3.僧帽弁閉鎖不全症
【主訴】呼吸苦、下腿浮腫
【既往歴】急性心筋梗塞(経皮的冠動脈形成術、冠動脈バイパス術後)、僧房弁閉鎖不全症(僧帽弁形成術後)
【現病歴】201X年の7月から左下腿浮腫は自覚しており、8月に入ってから労作時の息切れ、下腿浮腫の増悪を認め近医を受診。その後当院救急外来を紹介受診した。
【入院後経過】
入院後安静を行ったうえで利尿薬静注を追加することにより順調に尿量が得られ、呼吸苦・下腿浮腫ともに症状は寛解した。血液検査上低K血症がみられたため補正目的で追加分のフロセミドを中止し週2回のサムスカ内服へ変更した。経過は安定し、全身状態も良好であったため入院9日目に自宅退院となった。
【考察】
 呼吸困難は呼吸を行ううえでの苦痛、不快感、努力感を表す自覚症状であり、訴えとしては「息苦しい」、「息が切れる」、「空気が入ってこない」など多彩である。鑑別診断としては、気胸、COPD、肺炎、気管支喘息などといった呼吸器疾患の他に、急性肺血栓塞栓症、急性心筋梗塞、大動脈解離、急性心不全などの見逃してはならない循環器疾患も多く挙げられる。問診するうえで、上記の疾患を念頭に置き、症状の発現が労作時のみか安静時にもみられるのか、持続性か発作性か突発性か、また胸痛などの随伴症状を伴うかなどの点が非常に重要となる。
本症例は、陳旧性心筋梗塞を主因とする慢性心不全が、水分摂取過多を契機として急性増悪した一例であり、既往歴と下腿浮腫の合併が診断への手がかりとなった。心不全の患者において、心機能の低下により肺うっ血が高度になると起坐呼吸が出現し、患者は水平に寝る状態を保つことが困難となる。これには臥位になることで静脈還流量が増加すること、横隔膜が拳上することが関与している。また、心不全による呼吸困難の中には、心臓喘息と呼ばれwheezeを伴うものがみられることもあり、気管支喘息との鑑別が重要となるが、これにも下腿浮腫や頸静脈怒張などの随伴症状の診察、既往歴の聴取、胸部レントゲンや心臓超音波検査などの各種画像検査が循環器内科の診断上有用である。
本症例患者の呼吸困難は比較的軽度であり、労作時や会話時にやや息が切れる様子は見られたが、起坐呼吸や夜間の呼吸困難は見られなかった。入院時の胸部レントゲンでは肺うっ血がみられており、呼吸苦の原因としては、肺うっ血による肺静脈圧の上昇が原因となり、肺間質浮腫・肺胞内水腫がおき、それによって肺胞血液間のガス交換が阻害されていたことが考えられる。呼吸困難が強ければ持続的陽圧換気や非侵襲的陽圧呼吸、必要があれば気管挿管を行ったうえ人工呼吸を行うが、うっ血に対しては利尿薬を投与して肺静脈圧の是正を行うことがメインとなるが、それに加え適宜硝酸薬やカルペリチドを使用し降圧・利尿の促進も行われる。
本症例はベースに慢性心不全があり日常的に利尿剤を内服していたが、水分摂取過多が水分出納のバランスの崩れを招き心不全が増悪してしまったことが考えられた。当院到着時に利尿剤静注を行い、入院後も尿量と飲水量のバランスを見ながら適宜追加した。酸素化は入院当初より保たれており、酸素投与は行わず利尿剤静注、安静により症状の寛解が得られた。

【参考文献】
・中山書店 内科学総論 臨床症状 Vol.1
・中山書店 内科学書 循環器疾患 腎・尿路疾患

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