内科

乳頭状線維弾性腫

9月 29, 2018

乳頭状線維弾性腫

循環器内科

循環器内科

Papillary fibroelastoma、乳頭状線維弾性腫は、原発性心臓腫瘍の薬10%を占める比較的まれな疾患です。今回我々は、papillary fibroelastomaに感染性心内膜炎を合併した症例を経験したため、ここに報告させていただきます。
症例は65歳女性、既往歴に緑内障、子宮筋腫があり、歯科治療中の方です。現病歴ですが、来院2か月前から38度台の発熱を主訴に近医を受診され、レントゲン・心電図を施行されましたが大きな問題は指摘されず、解熱剤を使用されていました。1週間前から手指の痛みが出現したため当院受診となりました。

来院時現症です。身長152センチ、体重53.6㎏、体温38.3度と高く、脈拍や血圧は正常範囲でした。結膜黄染なく、頸部にも圧痛やリンパ節腫脹は認めませんでした。胸部聴診上ラ音は認めず、心雑音も認めませんでした。

四肢については、左環指と小指に断続的な疼痛があるものの、腫脹や発赤なく、また爪・手掌、足底に異常所見はありませんでした。
血液検査所見では、白血球11900と上昇を認め、好中球79.5%と左方移動を認めました。電解質や肝機能・腎機能には問題なく、CRPは5.28と上昇しておりました。

胸部レントゲンでは、異常陰影は認めず、CTRは50%と心拡大もありませんでした。

心エコーでは、EF61% ,LVDd46mmであり、ARもMRも認めませんでしたが、僧帽弁に疣贅様エコーを認め、大きさは16×6mmであり、可動性を認めました。

すぐに経食道心エコーを施行したところ、僧帽弁前交連に、可動性のある16×6mm大のイソギンチャク様腫瘤を認めました。
この時点で感染性心内膜炎の診断となり、疣贅の可動性や形から塞栓症のリスクが高いと考えられ、緊急手術施行となりました。

手術所見ですが、疣贅はゼリー状であり、後尖に認められ非常に脆弱でした。弁尖ごと切除を施行されています。心房側と心室側両方に付着しており、これらを除去し弁形成を選択。感染リスクを考え人工弁輪は使用せず手術を終了としました。
こちらが切除された腫瘤ですが、イソギンチャク様で、繊毛が放射状に延びている形をしています。

病理所見です。乳頭状増殖を示す腫瘍像が認められ、乳頭状構造部は密な膠原繊維と弾性線維が同心円状に配列し、その周囲に多量の酸性ムコ多糖層が取り囲み、その表面を心内膜が被覆する像を呈していました。これはpapillary fibroelastomaに一致する所見でした。
同時にこの腫瘍表面に高度の疣贅形成がみられ、組織学的に感染性疣贅であり、多数の好中球浸潤と核破砕物やマクロファージの出現が認められました。PAS染色では疣贅の表層部を中心に菌の集簇巣を認めました。全体として感染性心内膜炎に一致する像でした。

術後経過ですが、血液培養からストレプトコッカスオラリスが検出され、ペニシリン感受性であったため、ペニシリンGカリウム2400万単位を投与。術後3日目には心嚢ドレーン抜去となり、良好に経過。抗生剤を4週間投与し、その後発熱等の再発なく退院となっております。

Papillary fibroelastomaの84%は弁から発生し、大動脈弁が44%、僧帽弁35%と左心系の弁に多いと報告されております。腫瘍辺縁は乳頭状に枝分かれし、イソギンチャク様で短い茎によって心内膜に付着しています。良性腫瘍ではありますが、塞栓症のリスクが高く、外科的切除が第一選択となります。さらに、papillary fibroelastomaに感染性心内膜炎を合併した症例が、これまでにも少数ですが報告されております。

いずれの症例報告においても、僧帽弁逆流がそんざいしておりました。本症例においては、僧帽弁逆流症が存在しない症例であった点が、特殊であったと言えます。結語です。僧帽弁逆流症を合併しないpapillary fibroelastomaに感染性心内膜炎を引き起こした症例を経験した。本症例は外科的切除および弁形成にて治療し得た貴重な症例として報告させていただきました。

-内科