内科

顕微鏡的血尿を認めた腎盂腎炎再発の一例

6月 10, 2016

顕微鏡的血尿を認めた腎盂腎炎再発の一例

船橋市の内科

内科

【主訴】発熱
【現病歴】201a年9月2日、急性腎盂腎炎で当院泌尿器科に入院しCTRXによる抗菌薬の点滴加療を行い経過良好のため9月b日に退院していた。9月1c日より腰痛、排尿時痛が再燃し、9月1g日に再度39度台の発熱を認めたため当院救急外来を受診した。右優位のCVA叩打痛、炎症反応の上昇と膿尿、腹部CTにて右腎周囲の脂肪織濃度の上昇を認めたため、急性腎盂腎炎の診断で同日緊急入院した。
【既往歴】201a年9月 急性腎盂腎炎
【主な入院時現症】体温 38.7℃ 血圧 113/71mmHg 脈拍 99bpm SpO2 97%(RA) RR 15回/分
CVA叩打痛あり(右>左) その他明らかな感染所見なし
【主要な検査所見】WBC 15200/μL, RBC 428万/μL, Hb 13.0g/dL, Hct 39.0%, Plt 28.4万/μL, AST 15IU/L ALT 19IU/L, LDH 153IU/L, Alb 4.1g/dL, T-Bil 0.6mg/dL, CK 62IU/L, UN 8mg/dL, CRE 0.56mg/dL, CRP 1.99mg/dL, Na 142mEq/L, K 3.8mEq/L, Cl 103mEq/L, 血糖 99mg/dL
尿定性(201a/9/19):尿潜血 2+, 白血球 1+, 亜硝酸(-)
尿沈渣(201a/9/19):白血球 41-50/HPF, 赤血球 31-40/HPF, 細菌+
尿培養(201a/9/19):塗抹 GPC 1+ GPR 1+ GNR 1+ 白血球 1+ 貪食(-)
尿培養(201a/9/19):Escherichia coli 10^5/ml
腹部CT(201a/9/19):右腎周囲の脂肪織濃度の軽度上昇あり 腎盂拡張なし【入院後経過】
#1.急性腎盂腎炎
尿培養を採取したうえで、CTRX 2g q24hの点滴静注による抗菌薬治療を開始した。第2病日には41度台まで体温の上昇を認めた。第4病日にはWBC 5000/μl, CRP 6.24mg/dLと白血球の低下を認め、抗菌薬への反応ありと判断しそのまま継続した。第6病日より抗菌薬を内服へ変更したが、培養より同定されたEscherichia coliはペニシリン系耐性、セフェム系中等度耐性を認めたことから、LVFX 500mg 1T分1を選択した。その後は、経過良好のため第8病日に退院とした。
【退院時処方】
レボフロキサシン500mg 1T分1 7日分
【総合考察】
血尿とは、定義上は尿沈渣で赤血球5/HPF以上となる事である。腎~尿道~膀胱~尿道のいずれかで血液が混入すれば血尿となりうるし、女性であれば経血や不正出血が混入される可能性もある。ただし、濃縮尿やビリルビン尿なども問診では血尿と表現される事がある。スクリーニングの試験紙検査においても、ミオグロビン尿などで尿潜血の疑陽性を示す事がある。これは、ヘモグロビン中のペルオキシダーゼ様作用を利用して試薬成分と反応するため、必ずしもヘモグロビンに特異的であるとは言えないからである。以上より、詳細な問診、身体診察、検査の限界も知りながら総合的に診療を行う事が重要となる。
まず、緊急性の観点からERで行う初期対応のアプローチとしては以下のようなものが考えられる。
① 濃い肉眼的血尿、凝血塊を認める場合
出血量が多い事が予測されるため、頻脈や血圧低下などのバイタル確認、貧血に伴う動悸・ふらつき・息切れなどの症状の確認、眼瞼結膜、さらには採血検査による貧血の確認を考慮すべきである。糸球体や尿細管にはウロキナーゼがあるため、凝血塊を認めれば膀胱由来が疑わしい。さらに、多量の血液が凝血し膀胱タンポナーデを発症する可能性があるため、尿道カテーテル挿入、膀胱洗浄や持続灌流も考えうる治療の選択肢である。尿道損傷を引き起こす外傷、膀胱癌、放射線治療後などが原因として考えられ、抗凝固療法中のハイリスクな患者も多い。
② 尿検査、血液検査、薬剤歴の確認
頻度としては、尿路結石、尿路感染症によるものが多い。尿路結石における血尿は感度70-80%、特異度30-50%程度である。特異度が高くないため、その他の所見と併せ、単純CTが診断には有用である。尿路感染症においても血尿を呈する事があるが、診断は客観的な指標を欠くためその他の所見と、他の感染症を除外が大切である。
また、血尿から以下のものを鑑別する。ミオグロビン尿は筋肉の大量の崩壊を伴う疾患(熱傷、外傷、横紋筋融解症など)により生じる。診断には臨床情報が大切であり、CK・AST・LDHの上昇も参考となる。ビリルビン尿は直接ビリルビンの上昇により褐色調を示す。原因として、肝炎、薬剤などによる肝細胞性黄疸、胆道閉塞による閉塞性黄疸が考えられる。ヘモグロビン尿は溶血により生じるものである。
③ AKI合併
腎臓自体の問題によるものであり、Cre上昇や蛋白尿が目立つ事も多い。急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎の可能性があれば、入院を視野に内科コンサルトすべきである。
以上のアプローチで状態が安定していれば後日、腎臓内科か泌尿器科での精査が勧められる。血尿が糸球体由来か否か、蛋白尿・腎機能低下を伴っているかが重要な鑑別ポイントである。糸球体由来の血尿であれば、赤血球円柱、変形赤血球を認める。或いは、1日蛋白尿500mg以上であれば糸球体由来を疑われる。
① 血尿のみである場合
糸球体由来であれば菲薄糸球体基底膜症候群、IgA腎症などが鑑別に挙がるが経過観察となる場合が多い。糸球体外由来であれば結石、悪性疾患の可能性も考慮して画像評価、尿細胞診で鑑別を勧める。
② 血尿+蛋白尿、腎機能低下を認める場合
糸球体腎炎の鑑別を専門的に進めるために、採血項目の追加、腎生検が考慮される。
本症例は、特記すべき既往歴のない若年女性であり、上・下部尿路症状、血尿・膿尿を認め、典型的な尿路感染症から腎盂腎炎へ進展した一例である。同定されたEscherichia coliも一般的な起炎菌であり、抗菌薬への反応も良好であった。
参考文献)
1. 「ER実践ハンドブック」 樫山鉄矢、清水敬樹 編
2. 「ジェネラリストのための内科外来マニュアル」 金城 光代、金城 紀与史、岸田 直樹 編

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