循環器内科

記憶と見当識を補うケアの重要性

9月 22, 2018

記憶と見当識を補うケアの重要性

心臓病内科

心臓病内科

【はじめに】

認知症者は認知機能障害により自分自身が置かれている状況が認識できず不安を抱え生活しており、その人らしく安心して生活を送れるようなケアや環境調整が必要となる。循環器内科治療において重要な分野である。今回、A氏との関わりを振り返り記憶と見当識を補うケアの重要性について学ぶことができたため報告する。

【事例紹介】

A氏、80代、女性。アルツハイマー型認知症の診断で投薬を受けていたが、嫉妬妄想や暴力がみられるようになったためかかりつけ医を受診。髄膜炎の診断を受け入院治療後に薬物コントロール目的で実習施設に医療保護入院となった。HDS-R14/30、MMSE16/30。入院中ベッドから転落し、左大腿骨不全骨折を起こし歩行が制限されていた。易刺激性は薬物コントロールにより落ち着いていたが、焦燥感が強くなることがあり、屯用薬を使用することがあった。旅行が趣味でじっとしているのが嫌いな性格であった。

【実践】

A氏からは「わからなくなっちゃった」「どうすればいい?」という言葉が聞かれ、帰宅欲求のためそわそわし落ち着かなくなる様子が見られていた。A氏の認知機能障害が引き起こしている生活障害を知るためにA氏の言葉、しぐさ、表情に注目しA氏がどのような世界を体験しているのかや、焦燥感のために屯用薬を使用している背景をアセスメントした。すると「家に帰りたい」と訴え、焦燥感が強くなる背景には、見当識障害によって時間と場所がわからないこと、記憶障害から自分が置かれている状況を認識できないことによる不安や寂しさがあった。また、A氏は食堂に対し居心地の悪さを訴えていた。これは前頭葉の萎縮から注意障害があり音の刺激に対し不快を感じることや、過去にテーブルと壁で行動を制限されていたという不快な記憶が要因であると考えられた。このような居心地の悪い環境も「家に帰りたい」という思いに繋がっていた。A氏が不安を訴えるのは特に寝起きの時、夫との面会の後、自室から場所を移動した後が多く、またタオルたたみなどの慣れない作業を行った時にも混乱している様子が見られた。そこで混乱しない環境を整えること、見当識や記憶を補うケアが必要であると気づき介入を行った。見当識と記憶を補うケアとして24時間リアリティ・オリエンテーションを意識した会話と月日と予定を書いたホワイトボードを掲示した。居心地の良い環境として、A氏の過ごしたい場所で一緒に過ごし、話を傾聴した。またタオルたたみなどの慣れない作業を行う時には混乱しやすいため側に寄り添いA氏の様子を見ながら声掛けを行う必要があることをチームに伝えた。このようなケアを行うことで「わからない」と話すことも少なくなり、混乱しやすい状況でも「胸がもやもやする」というような苦痛の表出はなく、穏やかに過ごす時間が増えた。

【考察】

自分自身が置かれている状況が認識できず不安の中で生活している認知症者の苦しみを知るためには、その人の体験している世界を知ろうと意識的に関わる必要がある。そして目の前に見えている状態に目を向けるのではなく、背景や要因を多角的にアセスメントすることが必要である。A氏の不安や混乱の根本的な要因であった見当識障害と記憶障害を補うケアを行ったことで起きたA氏の変化から、日常的に行っている見当識や記憶を補うケアの重要性に改めて気づくことができた。認知症のある循環器疾患の患者は少なくない。

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